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好文木(校長ブログ)
2022.09.28
読解力の重要性

 大学受験における国語の出題は評論文が主で、評論文を読み解くには論理的思考が必要だと言われます。新学習要領では論理国語と文学国語に分けられており、受験を意識すると論理国語を選択するので、文学から遠ざかるのではないかと懸念されています。
 そんな折、元外交官で作家の佐藤優氏の『読解力の強化書』に出会いました。佐藤氏は読解力を磨く最高のテキストは一流の文学作品だと言います。それは様々な状況や異なる考え方生き方を小説の登場人物を通して疑似体験することができ、人間関係や人生に柔軟に対応することが出来るようになるからだと。特に夏目漱石の作品における近代自我の孤独と不安というテーマが、現代にも通じる普遍性を持っており、漱石作品は読解力向上に適しているとしています。
 SNSについて、同質性の高い集団においてはコミュニケーションを活性化する一方で、立場や意見が違う者を排除する閉鎖性が強いツールであると指摘しています。村社会から都市型の大衆社会に移行し、村社会的同調圧力から解放され、様々なしがらみから解き放たれ自由を得たものの、与えられた自由を享受できず不安と孤独になった人が再び繋がりと連帯を求めるとき、文化的同質性に向かおうとする傾向が強まり、そこにナショナリズムが誕生する必然性がある。そして、インターネットやSNSを通じて、ある主張が繰り返し拡散されるエコーチェンバー現象が、それをさらに加速しているというのが、現代社会が直面している問題でもあるとの分析を行っており、誠に的を射たものだと思います。そして、読解力とは相手の内在的論理を知ることであり、読解力の欠如がナショナリズムを生むとも述べています。
 日本は1990年代のバブル崩壊以降30年にわたるデフレを経験し、アメリカ一極集中のパクスアメリカーナ(アメリカによる平和)からロシアや中国の台頭による多極化の時代を迎え、日本のプレゼンスが相対的に低下してきました。Japan As No.1、一億総中流時代は遠い昔となり、格差拡大と二極化が進みました。少子高齢化が進む日本は下山の時代に入ったのですが、この状況にくさびを打ち込み、自信を失いつつある国を再び日の昇る国にしようと”美しい国日本“、“Japan is back”を掲げて登場したのが安倍政権でした。2006年、教育基本法が改正され、第2条教育の目標がより具体的に示され、5項に伝統文化の尊重、郷土愛が盛り込まれました。私は、文化伝統の尊重や郷土愛は規定されて持つものではなく、その気持ちが自然に沸き起こることこそが本来のあるべき姿であり、それが持てる国を造るのが政治家の役目だと思います。
 そして、この間、様々な場面で「日本が悪く、日本はダメだ」という自虐史観からの脱却が図られました。卑屈な自虐史観からの脱却は必要だと思います。しかし、適切な修正を通り越して、「日本こそが正しい。欧米こそが間違っている」との極端な日本礼賛の言説が目立つようになりました。政治は権謀術数の世界であり、歴史は勝者によってつくられるという側面もあります。しかし、事実の検証を蔑ろにしてムード(空気)で動かされては道を誤るというのが、我々が太平洋戦争から得た歴史の教訓ではないでしょうか。この20~30年、株価は上がれども給料は増えず、非正規雇用が増加し、中流からの転落が増え、将来に希望の見出しにくい状況下において、まさにエコーチェンバー現象によりナショナリズムが台頭してきたのではないかと思います。アメリカで、ロシアで、中国で、同じような状況が生まれ、世界の潮流になっているように思います。
 佐藤氏は読解力養成には論理的に読むことが必要だとし、相手の立場になって読むことすなわち共感することと文章に書かれていない意図や流れを読み取ることすなわち行間を読むことの重要性に言及しています。また絶対的、排他的、固定的な価値体系であるドグマ思考では読解力は深まらず、自分の固定観念を取り払い、様々なモノから自由になることを勧めています。読解力はなにも受験に役立つためだけのものではなく、世の中を正しく判断し生きてゆく上で誠に重要な力であることを改めて認識しました。

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