好文木(校長ブログ)
2024.05.20
アート小説の面白さ

 このところ原田マハさんのアート小説にはまっています。『たゆたえども沈まず』、ゴッホとその弟テオとの生涯を扱った作品です。ゴッホがピストル自殺に至る経緯や作品が生まれた背景、兄を支える献身的な弟の姿が描かれています。
 『暗幕のゲルニカ』は世紀の傑作を巡るアートサスペンスです。国連本部、イラク攻撃を宣言する国務長官の会見時、いつもは後ろにかかっているピカソのゲルニカのタペストリーが暗幕で覆われていました。タペストリーを暗幕で隠したのは誰か、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のキュレーター(学芸員)八神瑤子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていきます。ピカソのゲルニカに込められた平和への強い思いとそれを受け継ぎ守ろうと奔走するコレクターやキュレーターたちの活躍が壮大なスケールで描かれています。
 『楽園のカンヴァス』はアンリ・ルソーの名画「夢」とうりふたつの絵画「夢を見た」を所有するコレクターから真贋の鑑定を依頼された二人の男女が絵画に潜む秘密を解き明かすアートミステリー。ルソーの「夢」に込められた思いとそのモデルとなった女性とその夫のルソーに対する思いと謎のコレクターとの意外な関係。『デトロイト美術館の奇跡』は市の財政破綻により閉館と作品の売却の淵に立たされた
デトロイト美術館を救った市民の思いを描いています。この小説ではポール・セザンヌの「マダム・セザンヌ(画家の夫人)」が取り上げられています。美術館が家であり、アートが友人だと考える人々の存在が印象的です。美術館とコレクションが市民の誇りとなっています。
 どの作品も史実に加え作者の想像を交えてストーリーが展開しますが、読み進むうちに、一部を除き架空の登場人物にもかかわらず、まるで実在の人物のように感じるストーリー展開の納得感が素晴らしいと感じます。
 以前、ユトリロやシャガール、藤田嗣治(レオナルド藤田)らの評伝を読み、画家を取り巻く様々な人間関係やエピソードを知り、改めてその絵画を眺め直し、新たな感慨を覚えたものですが、原田さんの小説はよりミステリアスでロマンティックな世界へと誘ってくれます。アート好きな人にはこたえられない小説です。さらに多くの画家のドラマを見せてくれることを期待します。

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