2020.07.22
『半沢直樹』に見る「挫折力」

 ドラマ『半沢直樹』の続編が始まりました。初回の視聴率は22%と好調な発進です。このドラマは、町工場を経営していた父親が、銀行の支援打ち切りにより行き詰まり、自殺した経緯を持つ主人公が、父親を見殺しにした銀行に就職し、様々な理不尽と闘ってゆくドラマです。
 前回は、融資打ち切りで、父親を見捨てた当時の担当者で現在は常務取締役として、頭取の失脚を狙う大和田の悪事を暴き、一矢報いるところで終わりました。これが、『水戸黄門』なら、大和田常務は銀行を首になり、半沢は重要ポストに昇進となるのですが、大和田派の懐柔を目論む頭取は、大和田を平取締役への降格で済ませ、逆に半沢を子会社の証券会社に出向させます。単純に勧善懲悪とはならないところに、リアリティを感じます。
 続編の第一話は、半沢が出向した証券会社に、IT企業のM&A案件が持ち込まれます。これを、親会社の銀行が横取りします。親会社の銀行からの出向組と証券会社プロパーとの間には確執があります。銀行に戻りたい出向者が、半沢追い落としを画策する銀行の上司と結託し、情報を銀行に流し、有利な条件で奪ってしまうのです。銀行に戻れなければ人生おしまいだという出向者に、半沢が「どこで働くかが大事なのではなく、何のためにどう働くかだ」と返します。
 働くなら、大企業で、子会社より親会社それも本社勤務、学ぶなら、偏差値が高く有名進学校、といった具合に、人は器で判断しがちです。確かにそれにはそれなりの合理的理由があります。しかし、希望は常にかなうものではありません。与えられた場で最善を尽くす時、道は開けるものだと思います。「居場所を理由に、できないことを正当化するのは負け犬根性じゃないか」そう半沢は考えています。
 実際世の中には、出世欲や金銭欲など私利私欲から、弱い取引先を切ったり、部下に責任を擦り付けたりし、いくら正論を唱えても泣き寝入りせざるを得ないことが沢山あります。このドラマがヒットするのは、そのような理不尽な現実に歯ぎしりしている多くの人びとの共感を得るからだと思います。そしてまた、「やればできる」と勇気をもらえるからじゃないでしょうか。
 『水戸黄門』は、最後に天下の副将軍という圧倒的権威が出てきて正義を実践しますが、半沢は「やられたら、やりかえす。倍返しだ!」と、自らを奮い立たせ、決してあきらめず、知恵の限りを尽くして立ち向かいます。見事なまでの「挫折力」、レジリエンス(回復力)を発揮します。
 彼には、父を見捨てた銀行に対する復讐心、その裏返しとして、企業とそこで働く人々の幸福に資するという銀行の正義の実践へのこだわりがあります。作者である池井戸潤氏は、不条理な世の中に対する反骨精神と銀行の社会的役割について、あるいは仕事というものについての考え方を、半沢直樹という人間の言動を通じて、世に問うています。
 2013年のドラマの中で、半沢の活躍で一件落着した後、赤井英和さん演じる中小工場の経営者が「不景気やし、俺らみたいなしょうもないおっさん、何もええことないと思ってたんやけど、正義はたまには勝つんや」としみじみという場面が印象に残っています。正義が常に勝つ『水戸黄門』とは異なり、正義がたまにしか勝たない『半沢直樹』、続編の今後の展開が楽しみです。

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