好文木(校長ブログ)
2025.06.26
教育は商売なり?

 私の好きな池波正太郎さんの時代小説に『剣客商売』があります。藤田まことさんが主人公の秋山小兵衛を演じたテレビドラマ冒頭のナレーション「戦国乱世は遠い昔のことながら、武士の魂やはり剣。あえて戦がなければこそ、腕におぼえの剣客どもは、売り込み合戦に明け暮れる。いやまさしく、昨今剣術は商売なり」は橋爪功さんの名調子で心に残ります。
 教育界は今、少子化が進みあの手この手の生徒獲得競走が繰り広げられ売り込み合戦にしのぎを削っています。8月に開催される私学展など立錐の余地もない通路に大勢の教員が出てブースへの呼び込みに余念がありません。コロナの時はさすがに呼び込みもなく整然と行われていましたが。オープンスクールではお菓子や文具などのお土産合戦の様相。奨励金は教育コスト削減の意味が大きくなっています。施設面ではデパートの化粧ルームのようなトイレ、廊下にはシャンデリア。ファミレスのようなレストランとメニュー。「楽しい、安い、きれい、おいしい」がキーワードです。いやまさに「教育は商売なり」。
 『剣客商売』は江戸時代中期、9代将軍徳川家重と10代家治の治世下で側用人と老中を兼任した田沼意次の時代が舞台です。田沼時代はそれまでのコメを中心とした重農主義から商品・貨幣経済、重商主義への転換期でした。かつては賄賂政治家のイメージが強かった意次は開明的な改革者で、その跡を継いだ松平定信こそ守旧派との見方もあります。田沼時代に芽生えた経済、文化の開放性が幕藩体制の終焉の遠因になったとも考えられています。少子化進展により需給バランスが崩れて市場経済の洗礼を受けている現在の教育界にも様々な変化が出ています。公私入り乱れての競争の激化、一斉教育の限界、通信制選択の増加、部活動の外部化、指導から伴走へなど。生徒の「お客様化」と言う批判も含め賛否両論を伴うこの潮流は益々勢いを増すように思います。教育者の魂は失わず、昭和から令和へ頭を切り替える時でしょう。

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