西田敏行さんが亡くなりました。なかなか味のある私の好きな俳優さんの一人でした。西田さんが歌ってヒットした「もしもピアノが弾けたなら」はよくカラオケで歌ったものです。NHK大河ドラマでは西郷隆盛、秀吉や吉宗などシリアスな役柄をこなす反面、「釣りバカ日誌」では趣味の釣りと家庭生活を優先して仕事は二の次、三の次のダメサラリーマンのハマちゃんを熱演。自身が勤める中堅ゼネコン鈴木建設の社長スーさん(三國連太郎さん)との掛け合いは最高でした。
「釣りバカ日誌」は1979年にコミック連載が始まり1988年から2009年にかけて映画化されました。この期間、日本はバブルに向かって突き進みやがてはじけます。世界では1989年ベルリンの壁が崩壊し東西冷戦に終止符が打たれ、アメリカ一極集中が進みパクスアメリカーナの時代を迎えます。そして2008年リーマンショックで世界経済は冷や水を浴びせられます。その後、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の台頭によりアメリカ経済は急成長しますが、日本は失われた30年の長いデフレのトンネルから抜け出すことが出来ず現在に至っています。
植木等さんが戦後の高度経済成長期のサラリーマンの悲哀をコミカルに演じたのに対し、西田さんは達観した平成のサラリーマンを演じました。1980年代の企業戦士を象徴するのはドリンク剤リゲインのCMキャッチコピー「24時間戦えますか」でした。CMムソング「勇気のしるし」は「黄色と黒は勇気のしるし、24時間戦えますか」で始まり、「アタッシュケースに勇気のしるし、はるか世界で戦えますか」、「有給休暇に希望をのせて、ペキン、モスクワ、パリ、ニューヨーク」、「年収アップに希望をのせて、カイロ、ロンドン、イスタンプール」そのあとに「ビジネスマン、ビジネスマン、ジャパニーズビジネスマン」と続きます。ちょうど私も総合商社に勤務していたころなので、応援歌のように思っていました。
「Japan as No.1」と有頂天にあった日本経済はバブルが崩壊し、株価、不動産価格は暴落、絶対つぶれないといわれていた大銀行や証券会社、ゼネコンなどが相次いで倒産する経済的カタストロフィーに見舞われました。そのような世相の中で、ひょうひょうと我が道を行くハマちゃんの生き方は痛快でもあり憧れる人も多かったのではないでしょうか。
西田さんは「いつか田中角栄の役をやりたい」と言っていたそうです。政治不信の時代、どんな田中角栄を演じたでしょうか。見ることが出来なくなり残念です。ご冥福をお祈りします。