好文木(校長ブログ)
2020.08.27
ロックダウン世代

 緊急事態宣言が解除され、徐々に学校は再開してきました。小中高では感染予防策をとりながらほぼ通常授業に戻り、部活動も再開されています。しかし、多くの大学ではいまだに遠隔授業が続いています。大学は学生の数が多く大教室の授業もあります。教室移動も頻繁ですから、感染リスクが小中高に比べると高いとの判断があり、容易に封鎖を解除するわけにはいかないのでしょう。先ずは少人数の授業やゼミ、実習や実験などから対面に戻し様子を見ているというのが現状です。
 ちょうど今日、来週から始まる教育実習の予習に来た同志社大学に進学した卒業生に実情を少し聞いてみました。彼女曰く、オンラインの授業内容は担当教授が良く考えて作成されており、対面授業と遜色はないが、自宅で受けるため、モチベーションが上がらないとのことでした。大学は友人との交流や課外活動を通じて多様な経験を積み人間力を養うという場でもありますから、キャンパスに入れず、自宅学習のみというのは学生にとっては厳しい状況だと思います。
 このような状態は日本に限ったことではなく、世界的に「大学封鎖」状態が続いています。今朝の日経新聞は一面トップでこの問題を伝えています。教育の質の低下が雇用に不利益を与えないか、そして将来の国の競争力が落ちないか懸念を示しています。
 国際労働機関(ILO)は、コロナ禍により教育や就職の機会を失ったことで将来にわたって労働市場で不利益を受ける若い世代を「ロックダウン世代」と称しています。ILOによれば、大学閉鎖などで世界の若者の65%が学習量を減らし、働いていた18歳から29歳までのほぼ6人に1人が仕事をやめ、雇用され続けている人でも労働時間が23%減少したと報告しています。
 記事は、米国ではハーバード大学が2学期から遠隔授業に全面移行し、キャンパス利用も一部に制限の方針である一方、リモートで教育の質が下がったとして学生が授業料返還を求めたケースが60校を超えたと伝えています。そして、遠隔で評価を高めた大学として「ハーバード大学より行きたい大学」と言われる米ミネルヴァ大学を紹介しています。
 ミネルヴァ大学は2014年にキャンパスを持たず、ネットで授業・討論する大学として開校されました。しかし、オンライン授業を学生が個々の自宅で受けるのではありません。20名以下の少人数クラスが編成され、クラスで仲間とともに外部にいる講師からオンラインで授業を受け討論をします。ここが他の大学のオンライン授業とは異なるところです。また学生は4年間で世界7か国に移動しながら全寮制の中で、仲間でクラブ活動や問題解決型のプロジェクトに取り組みます。
 従って、現在のコロナ禍において、教育と研究の両面を合わせ持つ大学における遠隔授業と教育に特化した全く異なるコンセプトのミネルヴァ大学とを比較しても意味がないように思います。ミネルヴァも国から国への移動に支障をきたし、また現地でのプロジェクトも難しくなるでしょうから、その最大の特色が生かせなくなるのではないかと思います。
 三密を避けることが不可欠であれば、大学での対面授業の一斉解禁はコロナの感染が収束するまでは難しいでしょう。授業は対面と遠隔を組み合わせながら行かざるを得ないと思います。学ぶということはどのような状況にあってもやる気さえあればできることです。ましてや現代はその材料には事欠きません。創意工夫をしてこの難局を乗り切ってほしいと思います。「ロックダウン世代」にもかかわらず、忍耐力も持久力もあるし、しっかり勉強もできていると言わしめてほしいと思います。大学生にエールを贈ります。

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