校内で一番好きな場所、それは「いこいの池」がある「テラスガーデン・パンセ」です。桜の季節には、ソメイヨシノの花のピンク色と新芽が赤い春モミジの赤と通常のモミジの緑とが三色重なりグラデーションが美しい時期があります。今は新緑の季節で雨上がりの樹々の緑がひときわ鮮やかで活力を感じます。
昨日も早朝、小雨のガーデンに出てふと一本の木を見ると、同じ木にも拘わらず違う形の葉が付いているのを見つけました。出勤してきた理科の先生を呼び止めて「面白いね」と話すと、さっそく調べてくれました。どうやらこれは自生した桑の木のようで、異形葉性といわれ、わりとよく見られるのだそうです。「同じ種類でも葉っぱの形がちがうのはなんで?」という、まさに私の疑問通りのコラムを見つけてそのコピーを持ってきてくれました。これは2020年に公開された新潟県の国際自然環境アウトドア専門学校の自然ガイド環境保全学科3年生に自然解説指導演習という授業を行っておられた先生のものです。
それによれば、桑の葉には3種類の葉があるようです。普通の葉と2~3切れ込みが入っている葉そして切れ込みの多い柏の葉のようなものです。木の成長段階によって3種類の割合が変わるそうで、普通の葉は成木に多く、2メートル前後の若木には2~3切れ込みがある葉が多く、1メートル程度の幼木には複雑な切れ込みのある柏の葉のようなものが多いようです。「いこいの池」のほとりにある木は若木です。
なぜこのように葉が異なるのかについては、学生から4つの意見が出ています。葉の切れ込みがあることにより光が下の葉まで届く。葉の表面積を減らすことで葉に光が当たりやすくなる。風通しを良くすることで湿度を下げ病気を防ぐ。虫食いの葉に見せることで虫を敬遠させる。なかなか面白い推論です。どれも生き残りをかけた自衛策です。
パンセには計画して植えたのではなく自生したヤマザクラもあり、自然の力強さを感じます。何種類もの樹々と下草が少しづつ我慢しながらも共生している姿は実に逞しくまた美しくもあります。翻って最近の人間のなんとひ弱になってきたことか嘆息せずにはいられません。「植物は光を浴びて育ち、人は言葉を浴びて育つ」といわれますが、その言葉に傷つき、言葉を失う人が後を絶たないのはなんとしたことでしょう。踏まれてもまた伸びる力、虫に食われても新芽を出す力、科学技術の進歩は人間から生きる力を奪いつつあるのでしょうか。「自然に還れ」と叫びたくなります。