3年生のみなさん、卒業おめでとうございます。保護者のみなさまにも心からお祝いを申し上げます。
この1年、世界は新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われ、混乱を極めました。フィジカルディスタンスを保ち、常時マスクをつける生活となり、何かと不自由を強いられ、ストレスの溜まる日常となりました。このような中でも、挫けそうになる自分を鼓舞し、勉学に、部活動に精励し、立派な成果を上げた生徒が沢山いたことを嬉しく思います。
コロナ感染対策の一つとして、飛沫の拡散状況のシミュレーションに、理化学研究所と富士通が共同開発したスーパーコンピューター富岳が活躍しました。ゲームやアプリ教材にもAIが活用されており、私たちの生活は、テクノロジーの進歩により便利で豊かになっています。
イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、著書『ホモ・デウス』において、進化するテクノロジーと人類の未来を大胆に予測しています。テクノロジーの中核をなすのはデータとアルゴリズムです。アルゴリズムとは、計算し、問題を解決し、決定に至るために利用できる一連の秩序だったプロセスのことです。
ハラリ氏は、「高度な知識を備えたアルゴリズムが、人間以上に人間のことをよく知るようになった時、社会や政治や日常生活はどうなるのか。人間が価値を失い、アルゴリズムに支配されることになるのではないか。アップグレードされた少数の特権エリート階級が生まれ、自由主義や民主主義の脅威となるのではないか」と、問題提起しています。
人間の手によって開発されたアルゴリズムは、成長するにつれて自己増殖を始め、我々には理解できない領域に踏み込み、いわゆるブラックボックス化してしまいます。例えば、囲碁・将棋の電脳戦で名人に勝利したAIには、700万回という途方もない回数の対戦記録が組み込まれました。開発者は、AIがそのデータをどのように解析し、どのような手を見出したのかわからず、何故AIが名人を打ち負かす力を持ちえたのか説明が出来ないといいます。
AIなど高度なテクノロジーは一部の優れた科学者によって生み出され、その構造を理解できるのは少数です。仕組みはよくわからないが上手くいっているという例が増えれば、増えるほど、テクノロジーに対する盲目的な信頼感が生じます。そして、テクノロジーは一つの権威となります。
ハラリ氏は、「テクノロジーは脳をアップデートできるかもしれないが、心を失いかねない。効果的にデータをやり取りできるものの、注意を払ったり、夢を見たり、疑ったりすることがほとんどできない人間を生み出す恐れがある」と、警鐘を鳴らしています。
人間は神を創造し、中世はその神や宗教によって人間が縛られていました。テクノロジーが人間復興のルネッサンスをもたらし、資本主義の発展に寄与しました。しかし今、我々がテクノロジーを盲信するなら、テクノロジーに従属してしまうこととなり、またしても自らが創造したものに縛られるという皮肉な結果となるでしょう。そうならないためには、我々は、歴史に学び、権威を盲信せず、権威の元となる学問を学ぶことが必要です。
みなさんの前途には不確実性の世界が待ち受けています。長い人生のうちには、想定外の出来事に遭遇することもあるでしょう。予期せぬ大きな衝撃に耐えるためには、日頃から、ストレスを避けるのではなく、ストレスに向き合い、それを乗り越えてゆく力「挫折力」を養っておくことが不可欠となります。常に学ぶ姿勢を失わず、挫折力を磨きながら自らの人生を切り拓いていってください。
みなさんの今後の活躍を心から祈念して、私の式辞といたします。