好文木(校長ブログ)
2024.01.18
文学の実用性について

 学問の社会的実用性について大正大学の山内洋教授が書かれた日経新聞の記事(2024.1.16「自己認識深め学生成長」)は非常に興味深いものでした。
 山口教授は文学には言葉を通じて多様な学生を成長させる力があり、実学としての存在意義があると主張します。教授は大切なのが卒業論文であるとし、その学習目標を2点あげています。一つは作家を論じる過程での自らの専門的知識と汎用的技能との間により高次な統合を得ること(この意味は私には少々難解です)。もう一つは今後生きていく様々な場面で活用できる概念を獲得することとしています。
 自らの体験の言語化が学習の本質であり、その過程で言語化できないものが残り、それが次の思索や行動の動機になる。また作品から受け取ったことの言語化のためには「よく読み」、「よく調べ」、「よく考え」、「よく書く」ことを目指さねばならないと。自己の体験の言語化と文学作品を読むことから得られた事柄の言語化との繰り返しが自己認識を深め、社会認識や価値判断を磨くことにつながります。同じ文学作品の味わい方が若い時と年齢を重ねた時とで異なるのは、自己の経験が作品の読みを深め共感を呼ぶからでしょう。
 実学というと、社会に出て仕事で役立つスキルや資格であり、文学は勉強しても飯のタネにはならないと考えられがちです。企業に就職するなら、経済学部や商学部で文学部は不利と考えているのではないでしょうか。しかし文学作品を学ぶことを通して人間関係の機微であったり、他者に対する共感であったり、勇気であったり、諦観であったり「生きていく様々な場面で活用できる概念を獲得する」ことができます。かつて都市銀行の役員から、「入行すると、経済学部出身の学生より文学部の学生のほうが意外に仕事ができるんです」と聞いたことがありました。
 昨今Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の頭文字をとったSTEMA教育の重要性が言われておりますが、理系分野にのみ目が行きがちです。Art部分の重要性もしっかりと捉えねばなりません。人工知能の驚異的な進歩と人間疎外が進む今、芸術の創造性とともに文学の実用性に光を当てることが必要だと思います。
 

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