好文木(校長ブログ)
2023.08.17
終戦の日に思う

 5日から15日まで教員の夏休みでした。私は8日、9日と私学人権の研修に参加、12日は天満橋OMMで開催の私学展視察に参りました。最終日の15日、近畿直撃の大型台風襲来で一日中家に籠っていました。テレビは台風情報で埋め尽くされていましたが、その合間を縫っていくつか終戦の日に合わせた番組を観ました。
 特攻隊員の生き残りだった茶道裏千家15代家元、千玄室さん、元金融相亀井静香さんの話を聴くことが出来ました。実際に太平洋戦争を経験したお二人は異口同音に「戦争をしてはダメだ」と訴えておられました。亀井さんは右派の政治家だと認識していますが、「戦争はいかんよ。戦争は絶対しちゃだめだ」としみじみ語っておられたのが印象的でした。「徹子の部屋」では、過去のダイジェスト版を放送し、三波春夫、高峰秀子、加藤治子、三代目江戸家猫八の各氏が戦争の思い出を語っていました。もう皆さん鬼籍に入っておられますが、それぞれ戦争の惨禍を経験され、戦争はもうこりごりだという思いが伝わってきました。主義主張にかかわらず、戦争体験者と非体験者とでは戦争に対する考え方に違いがあります。体験者は戦争の悲惨さを身に染みてわかっています。しかし、私も含めて非経験者は観念的な理解にとどまってしまうのではないでしょうか。だから、経験者の話に耳を傾けることが大事だと思います。
 講談社学術文庫から『ひとはなぜ戦争をするのか』という本が出ています。アルバート・アインシュタインとジグムント・フロイト、二人の天才の交換書簡です。
 1932年、国際連盟がアインシュタインに「今の文明において最も大事だと思われる事柄を、一番意見を交換したい相手と書簡をかわしてください」と依頼しました。アインシュタインの選んだテーマは、「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」でした。国際的な平和を実現しようとすれば、各国が主権の一部を放棄し、自らの活動に一定の枠をはめなければならない。しかし、人間の心には平和への努力に抗う力が働いている。権力欲や、憎悪に駆られ相手を絶滅させようとする欲求など。憎悪と破壊という心の病に侵されないようにすることができるのか?
 アインシュタインが意見を求めたのはフロイトです。彼は次のように答えています。人と人の利害対立はもともと暴力により解決されてきた。暴力から法による支配に変わっても、暴力が不可欠である。これからの戦争は当事者のどちらかあるいは双方が完全にこの世から消滅するものとなるかもしれない。これを止めるには、文化水準を上げて知性を強めること。そして知性の力で人間本来の攻撃欲望を鎮めること。文化の発展が生み出した心のあり方と、将来の戦争がもたらすとてつもない惨禍への不安、この二つのものが近い将来、戦争をなくす方向に人間を動かしていくと期待できるのではないか。文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩みだすことができる!
 20世紀を代表する物理学者と心理学者の往復書簡から導き出された結論でしたが、その後第二次世界大戦が起こりました。戦後、国際連盟に代わりさらに強固な国際連合が結成されました。しかし2022年、文化の力は再び一人の独裁者を止めることができませんでした。永遠の平和の実現がいかに難しいことか改めて感じます。日本においても戦後78年となり、戦争の体験者が少なくなってきました。戦後を新たな戦前にしないストッパーの役目を担う政治家の中でも戦争経験者がいなくなることに一抹の不安を感じます。

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