好文木(校長ブログ)
2020.01.06
SNS、匿名性に潜む罠

 比較的暖かく穏やかなお正月休みが終わり、令和2年がスタートしました。昨年末には日産元会長カルロス・ゴーン氏のレバノンへの国外逃亡のニュースが飛び込み、その経路や方法に関心が集まり、出国の厳格化が議論に上っています。そして新年早々、アメリカによるイラン革命軍司令官殺害によりアメリカとイランの緊張が高まり、一触即発の危機を迎えています。
 トランプ大統領はイランが米国人や米国の施設などを攻撃した場合には、「イラン関連の52カ所を標的にとても迅速かつ激しく攻撃する」とツイッターに書き込んでいます。昨今は世界の首脳もツイッターなどSNSを通じてメッセージを発することが多くなりました。なかにはウイットの効いたメッセージもありますが、「売り言葉に買い言葉」的な感情あらわな文言が飛び交うと、冷静な外交交渉を阻害する懸念が高まります。
 さて、昨年末、1月から3月にかけて放映されたドラマ「3年A組」が3日連続で一挙再放送されたのを観ました。卒業まであと10日となるなか、3年A組の担任がクラス29人全員を集めて、「今から皆さんに人質となってもらいます」と宣言します。校舎の一部が爆破され生徒たちは教室内に閉じ込められます。彼の目的は半年前に起こった水泳部エースだった女子生徒の自殺の真相を明らかにすることでした。ドーピングを疑われるフェイク動画がSNSで拡散されクラスでいじめに遭い精神的に追い詰められていった経緯が順次明らかになっていきます。サスペンス調でハードボイルドな学園ドラマです。
 最近は自分の価値観に合わなかったり気に入らないことがあったりすると、「匿名」の仮面をかぶり、ある事ないことを「掲示板」に書き込み不特定多数に対して発信します。これにより人権侵害を受け、精神的苦痛を味わう人が出てきますが、それを目的にSNSで拡散を目論む確信犯的な人間もおり、極めて悪質です。ドラマはその悪質さと卑劣さを徹底的に暴き出します。
 ドラマの中で菅田将暉さん演じる3年A組担任の美術教師は、「Let’s think」(考えろ)と何度も呼びかけます。徹底的に調べて自分の頭でよく考えて、発言するよう繰り返し訴えます。「物事の本質を見ろ」と教えます。無責任な発言で人の命が失われることの悲惨さを訴えます。最初は責任転嫁と自己保身に終始していた生徒たちも、異常な環境下で行われる担任の授業を通じて、自分自身の過ちを認め次第に一丸となって真相解明に向かいます。観ごたえのあるドラマでした。
 ノンフィクション作家の柳田邦男氏は、『言葉の力、生きる力』(新潮文庫)の中で、「匿名の恐怖」と題して次のように述べています。「インターネットの「掲示板」上での、少年による殺人予告や利用者同士の罵声のあびせ合い、メールによる脅迫やストーカーなど、急激な情報通信革命の浸透の中で、その「負の側面」とも言うべき陰湿で刺々しい現象が様々な形で顕在化している。この問題の本質を解くには、「匿名下の人間の意識と行動」という分析視点が有効だと思う。(中略)ネット社会の「匿名」とは、情報発信者が発信情報に責任を取らないばかりか自らは傷一つ負うことなく、相手に対して暴君的にふるまうことが出来るという危険性を孕んでいるのだ」と。
 「3年A組」の担任は言います。「グッ、クルッ、パッだ。大事な決断をするときは、グッと踏み留まって、クルッと頭を一周させれば、パッと正しい答えが浮かぶ」 感情に流されず立ち止まって考える冷静さと勇気がSNSに潜むリスクを回避します。本校でもSNS使用上の注意は様々な機会を捉えて行っていますが、百の説教よりこのドラマを観たほうが効果があるのじゃないかと思いました。

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