2019.08.30
ノーサイド・ゲーム

 TBS 日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』は自動車会社の赤字続きのラグビー部GMに左遷されたエリートサラリーマンの苦闘を描くドラマで、あの『半沢直樹』の著者、池井戸潤氏の原作です。私はラグビーには全くの門外漢ですが、見出すと面白く毎週日曜の9時を楽しみにしています。
 経済誌の週刊ダイヤモンドが8月31日号でW杯開催を前にラグビー特集を組んでいます。『ノーサイド・ゲーム』で、アストロズの中心的選手、浜畑譲を演じる廣瀬俊朗氏(ワールドカップ2019アンバサダー、元日本代表キャプテン)が、「勝ち負けではなく、自分たちが憧れの存在になりたいという使命に集中した」とインタビューに答えています。
 早稲田ラグビー部の伝説の監督、大西鐵之祐氏について、OBの佐々木卓氏(TBSホールディングス社長)は「「ジャスティスより前にフェアネス(ルール以前に人として公正であれ)」と言われ、その指導方法は徹底的に論理的。個人の人格を認め懇切丁寧に説明し、自然と質問を返してしまうように持っていくものだった」と語っています。
 慶應ラグビー部OB の玉塚元一氏(ファーストリテイリング社長、ローソン社長を経てデジタルハーツホールディング社長)は「花となるより根となろう」という自己犠牲の精神を表す慶大ラグビー部の有名な言葉と小泉信三塾長の「練習は不可能を可能にする」という言葉が、思いを一つにしてみんなで努力すれば巨象も倒せるという確信を生み、その経験は自らのビジネスにも生かされていると言います。
 ラグビー強豪校、静岡聖光学院高等学校は週3回、1回90分の超短時間練習で質と量のベストバランスをつくり、英国のパブリックスクールとの国際交流でジェントルマンシップを学んでいます。進学校埼玉県立浦和高等学校の練習は放課後の2時間30分で練習終了後は学校に残って図書館が閉まるまで勉強する生徒が大半だそうです。共通するのは、自分の頭で考えて勝利するという主体性を育てる教育です。
 エディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチに請われてメンタルコーチを務めたスポーツ心理学の荒木香織園田学園女子大学教授は、チーム(組織)として勝利や成功に欠かせない「リーダーシップ」を素質ではなく後天的に身につけられるスキルと考えています。そしてエディー氏に頼まれたのが、「どうせ無理だろう」というネガティブ思考を「俺たちにもできる」という前向きなものに変えることだったそうです。
 南アフリカ戦での試合終了直前、エディー氏はペナルティキックで同点を狙う指示を出したのですが、選手はいけると見定め指示を無視してトライを狙い大逆転勝利につながりました。荒木さんは「チームが主体性をもって、自らの意志と判断で行動した。それこそエディーさんと私が3年間、選手に求め続けたこと。選手たちがたくましく成長したことを物語る確かな証が見えました」と喜びを語っています。
 この話と対極にあるのが小学校で行われる道徳の授業の教材となった『星野君の二塁打』というお話です。監督の出したバントのサインを、打てそうに思った星野君は監督の指示を無視してバットを振り二塁打を放ちます。その結果チームは勝利し大会出場を決めます。
 しかし、試合終了後、監督はチームの作戦として決まったことを守らなかった星野君に、如何に結果が良くとも約束を破ったことは良くなく、犠牲的精神が分からなければ社会で役に立てないと諭し、出場停止にします。
 青山学院大学の佐藤剛氏(ラグビー部OB)は、「礼儀正しさやメンタルの強さに加えて、結果が出ないときに、仮説を立てて練習を工夫したという経験を話せる学生は、特に企業から人気が高い。これは問題解決能力を重視する流れとも一致する」と述べておられますが、上述のような道徳教育で育てられて、問題解決能力が身につくとは思えません。
 私は本校の部活動を12年間眺めてきました。そもそも校長を引き受けたきっかけが、弓道部の存在です。今では来校者から生徒の挨拶が素晴らしいとお褒めいただく学校になっていますが、当時はそうではありませんでした。しかし、その中で唯一弓道部員だけは、廊下で立ち止まって挨拶をしていました。今では恒例の定期試験前の部員が集まってのテスト勉強もレストランで始めたのは弓道部です。ついに、先日、国土交通大臣から表彰をいただきましたが、年間100日を超える全校生徒による校外清掃も最初に始めたのは弓道部です。
 当時、弓道部の指導法や顧問に関して批判めいたことを私の耳に入れる教員もいましたが、出る杭は打たれるもので私は全く意に介しませんでした。それに生徒を見ればわかったからです。生徒が育っていたからです。
弓道を中学でやっている生徒はおらず、みな初心者です。全員が優秀で真面目な生徒ばかりではありません。教室を見回ると鼻ちょうちんで居眠っている子もおり、よく起こしたものです。おにぎりを頬張りながら登校していて注意したこともありました。家庭環境等様々な状況から最初は心を閉ざしていて横を向いているような子もいました。
 しかし、そういう生徒にしっかり寄り添って時には叱り時には励まし丁寧な指導をしていました。技量の劣る生徒にもその生徒の得手を活かして部内での役割を与えて自尊心を持てるように育てていました。そしてそれをクラブ生みんなが認め助け合う文化が育っていました。多くのクラブでは3年生は二学期になれば引退します。引退を機に急に態度が悪くなる部もあった中で、上級生が下級生の面倒をよく見ていました。女子弓道日本一になった3年の生徒は試合に出る後輩のために朝6時半に登校しておにぎりを握っていました。顧問に指示されてではなく自ら進んでやっていました。教育の成果を見る思いがしました。そういう技術指導以前の教育があってこそインターハイ優勝など数々の栄冠を獲得できたのだと思います。
 玉塚氏はインタビューの中で、「トライを華麗に決める五郎丸もいれば、スクラムを組んでひたすら地べたにいる選手もいる。けれども地べたにいる選手こそが、トライを生んだという考え方です」と述べておられますが、まさにその通りと思います。
 校長に就任した私が、弓道部顧問を生徒指導部長に任命し学校改革を進めたのは言うまでもありません。歴代の本校校長は公立高校で校長を経験された人格者が就任されており、素人の私など足元にも及ばぬ教育者としてのキャリアをお持ちでした。しかし、公立のロ-テーション型の人事による校務運営に主眼を置かれていたようでした。私は職員会議で「黒い猫でも白い猫でもネズミを捕る猫が良い猫だ」という改革開放政策を推進した中国の鄧小平主席の言葉を引用しぬるま湯からの脱却と適材適所の人事で改革推進を宣言しました。『ノーサイド・ゲーム』で、全くラグビーのことは知らないでGMを任された大泉洋氏演じる君嶋隼人GMの苦闘には共感を覚えます。
 時は流れ部活動の顧問もベテランから若手に替わってきました。その結果、すっかり精彩を欠いてしまっているクラブと逆に廃部寸前までいったものの今年近畿大会に出場するまでに復活したクラブもあります。上手くいっているクラブは生徒間のもめごとがないか、もめても部内で先輩が中心となってきちんと収めています。上手くいってないクラブはしょっちゅう小さなトラブルがあり部員がバラバラになっています。顧問への不満も出てきます。ここに顧問の指導力、教育力の差が出ています。人としての成長が期待できないような部活動なら、学校でわざわざやる必要はありません。
 最近、学校の部活動は体罰問題や教員の長時間労働の主原因として批判にさらされています。ブラック部活なる有難くない言葉も流行しています。長時間労働も厭わず生徒のためにと進んで部活動を指導している教員にとっては腹立たしい限りだと思います。しかし、一方でやったことのない競技の顧問をあてがわれて土日も返上で疲弊する教員がいることも事実でしょう。これを「教師の仕事とはそういうものだ」という従来型の考えを押し付けるのもいかがなものかと思います。
 部活動に限らず受験指導や就職指導を一生懸命やっている教員もいれば、最小必要限度のことしかやっていない人もいます。これは企業でも同じですが、学校は企業と比べると悪しき平等主義が横行しています。時に生徒から「校長先生、××先生はほんまいいかげんです。それに引き換え若いけど○○先生は生徒思いで一生懸命やってくれてます。××先生の給料を下げて○○先生にあげてほしいぐらいです」なんて話を聴くこともあります。生徒の見方が一方的な場合もありますが、大抵は私の評価と同じことが多いです。
 本校はいち早く人事評価制度を導入していますが、極めて穏やかのもので、年功序列は崩れていません。「休まず遅れず働かず」の年長者が、担任業務、校務分掌、クラブ指導、勉強の個別指導など「それは本当に生徒のためになるか」を体現し成果を上げている若手よりはるかに高い給与を得ているのはアンフェアーだと思います。年齢に関係なく一生懸命やっている人には報いたいと思います。このシステムはどこかの時点で変えなければならないと考えています。

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