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好文木(校長ブログ)
2022.02.04
人生これすべて?

 強烈な個性で一時代の政界に存在感を示した石原慎太郎氏が亡くなりました。心からご冥福をお祈りいたします。テレビの追悼番組で、晩年すい臓がんとの闘いの中にあった石原氏のインタビューを見ました。「死んだら意識がなくなるんだから、虚無だよ。虚無になるんだ」とのいかにも石原氏らしい実に潔い言葉が印象に残りました。
 かつて「人は死ねばゴミになる」と言った人もいました。「巨悪を眠らせるな」との名言を残した検事総長、伊藤栄樹氏です。
 まさに「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり、一度生を享け、滅せぬもののあるべきか」(幸若舞『敦盛』)の感があります。
 イギリスの小説家、サマセット・モームの長編小説『人間の絆』は、モーム自信をだぶらせた主人公フィリップ青年の夢破れ挫折多き生き様を通じて、「人生に意味はあるのか」と問いかけます。最後に彼は「理想の地は、いま、ここにある」と悟ります。今まで自分が追い求めてきた夢は、他人の話や文章から得たものばかりで、自然と心に浮かんだものではなかったと気が付きます。即ち、今まで歩んできた道は、すべきと思った道で、したいと思った道ではなかったと。「未来」を考えて生きつつ、いつも「いま」を指の間からこぼれ落としていたと。「自分の理想はなんだ。それは精巧で美しい模様を織り上げることだ。
それも人生に起こる無数の無意味な出来事で。しかし、ごく単純な模様もいいのではないか。人が生まれ、働き、結婚し、子どもを持ち、死ぬ、これもまた完璧な模様ではないか。幸福に屈服することは敗北を認めることかもしれないが、これは幾多の勝利より得るものが多い敗北だ」。
 戦う哲学者の異名を持つ小説家、中島義道氏は、『人生に生きる価値はない』において、「そもそも人生は生きるに値しないこと、何をしてもどうせ死んでしまうこと、その限りで不幸であること、それから眼を離して生きていることが最も不幸であることなど、繰り返し書き散らしているうちに、奇妙に「明るい」気分が体内に育ってきた」と書いており、これを「自由になる」、「明るいニヒリズム」だと言っています。フィリップがたどり着いた心境もまた同様ではないかと思います。
 先月、大学入学共通テスト当日、会場の東京大学正門前で、3人を切りつけるという事件を起こした高校生は、「東大医学部」という唯一無二の自分の理想に縛られていたようです。それは、こうすべきと思って選んだ道であって、自らこうしたいと思って選んだ道ではなかったのではないか。そんな気がします。理想の呪縛から解放されていれば、あのような悲惨な事件を起こすこともなかっただろうと、誠に残念に思います。
 私の高校時代、少し老成した面白い友人がいました。「人生これ全て無」が口癖でした。彼とは気が合い、よく学校帰りに遠回りして、彼が推奨する店に中華丼を食べに行ったものです。かれは卒業後、歯科大に進み歯科医院を開業しました。今では年賀状のやり取りだけで長らくご無沙汰していますが、一度会えれば、「やっぱり、人生これ全て無か?」と訊いてみたいなと思います。たぶん彼は笑って「やっぱり、人生これ全て無やで」と言うだろうと思います。

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