好文木(校長ブログ)
2023.07.05
のんびり暮らすのはダメか

 国立青少年教育振興機構による日米中韓4か国の高校生の進路と職業意識に関する国際比較調査結果を日経新聞が伝えています。日本の高校生は安定志向が強く、「暮らしていける収入があればのんびりと暮らしていきたい」と思う割合が84.5%と10年前に比べ7.3ポイント上昇し、「仕事よりも自分の趣味や自由な時間を大切にしたい」と考える割合も27.2ポイント上昇し84.7%になったといいます。各々、米中韓に比して高くなっています。これに対して、「労働観が消極的で、企業マインドも低い。小学校からのキャリア教育を積み上げる必要がある」など識者の意見が述べられています。
 先日、フランスでアフリカ系の17歳の少年が警官に射殺された事件をきっかけに、若者を中心とした大規模なデモが発生し、暴動に発展しています。この背景には根強い差別と格差があるといわれます。この報道を見ていると、フランス革命を想起します。フランス革命というと、ルイ王政の圧政に耐えかねた民衆による革命として教科書的には肯定的に捉えられています。しかし、その過程における民衆の行き過ぎた暴力、非人間的な行為はあまり語られません。高貴で恵まれていたものに対する妬みと憎悪が善良な市民をどれほど無慈悲で残虐なサタンに変貌させるかは、『王妃 マリーアントワネット』(遠藤周作)の記述から伝わってきます。フランスでたびたび起こるデモが暴徒化し、高級ブティックなどを打ち壊す様子はこれに重なり、本来の抗議の正当性が失われ、むなしさだけが残ります。
 日本も格差が拡大してきたといわれていますが、デモが暴徒化するようなことはありません。将来への不安はあっても差し当たっては困らないという人も多いのでは。起業家教育も結構ですが、「暮らしていける収入があればのんびりと暮らしていきたい」と若者が思える社会もまんざら悪くはないのではないかと思います。

新着記事
2024.05.20
アート小説の面白さ
2024.05.13
就社から就職へ
2024.04.09
桜散りて
2024.04.08
令和6年度一学期始業式校長講話
2024.04.04
令和6年度入学式式辞