安倍内閣の進める「働きかた改革」は、とかく長時間労働になりがちな学校現場にも一石を投じつつあります。公立中学校においては、部活動に休日を設けることや時間制限、外部コーチの招聘などが進められています。教員が本来の仕事である授業と生徒とのコミュニケーションに専念できるようにしようとの動きです。
しかし、その授業に関して、学力レベルの異なる生徒を一纏めにして一斉授業を行う従来のやり方では、なかなか学力が向上しないのが現実です。できる子には物足りなく、できない子にはわからない授業とならざるを得ず、どちらの生徒に対しても別途補習をしなければならなくなります。習熟度別授業についても教員側にはやりやすい授業となりますが、学力を伸ばしてクラスの上方移動を促す効果はあまり期待できません。レベルが固定されてしまうだけです。
今、予備校や塾は個別指導が主流で、学校での集団授業の補完機能を果たしています。本校のチュートリアル制度はこれと同様で、難関私学を希望する生徒に個別指導で成果を上げています。最初は、希望者を募り一斉の補習授業を行っていたのですが、当初20人ぐらい集まったものが1人減り2人減り、夏休みが終わるころには数人しか残らない状態が数年間続きました。そこで、自然発生的に個別指導に切り替えたのです。その結果、標準コースやデザイン美術イラストコース、マンガアニメーションコースから、大学受験に本当に意欲のある生徒が関西大学や近畿大学に一般試験で合格するようになりました。生徒の努力は言うまでもありませんが、個別指導を行っている教員の熱意と粘りの結果でもあります。
7月10日の日経新聞によると、教育各社による「学校内塾」が急成長しています。奈良県の有名進学校をはじめ公立私立を問わず広がりを見せています。本校でやっているチュートリアルを外部委託している形です。英会話やプログラミングでもネット授業や外部委託が増えています。
「高大連携の教育改革」と「働きかた改革」によって教育産業界にドラッカーのいうところの「顧客創造」が起きています。かつては学校教育において、学習を外部の教育産業に委託することには抵抗があったと思います。しかし、ICTの進化により、様々な学習教材が開発されると、学校での一斉授業より、自分のレベルに応じたところから個別に学べるネット教材を利用したほうが効果的だといえます。少子化が進む中、進学実績を上げることが生徒募集につながるとなれば、全てを自前主義でやるより、外部の力を利用したほうがコストパフォーマンスがよいということになってきました。
現在はまだあくまで一斉授業の補完でありますが、すべての授業がICTを使った個別授業となり教師が教壇に立たない日がやってくるかもしれません。その時、教師に求められる資質は、生徒の学力向上と進路指導における個別指導であり、どの教材を使ってどのように勉強してゆくか個々人の目的に合わせたポートフォリオを作成するポートフォリオ・マネージャーとしての能力となるでしょう。
また、ディスカッションやディベート、あるいは体育実技、体育祭・文化祭などの行事を通しての集団教育は残り、友人とのトラブル等人間関係で悩む生徒の相談役として高いコーチング能力が求められるでしょう。そこでは「傾聴と共感」の姿勢が重視されます。授業はネット配信、クラブ活動は外部コーチか地域のクラブに所属となれば、教師の仕事は少なくなると考えるのは早計です。逆にAIでは対応できないより高度なものとなると思います。