元県議に対する名誉棄損の疑いでNHK党の立花党首が逮捕されました。元県議に対する立花氏の発言に真実相当性があるかが焦点になると報じられています。この事件、名誉棄損にとどまらず、立花氏の発信により誹謗中傷が県議を攻め立て死に至らしめたという重大な結果を招きました。これは現代を象徴する事件だと思います。
SNS空間には他者を誹謗中傷する意見が溢れています。中には思い違いや誤解もあるでしょうが、それが事実として拡散されていきます。嘘も100回つけば本当になってしまいます。また一つの事実をもってすべてを語ることもあります。これは極めて危険です。私たちも日常会話の中で「みんなが言ってる」という言葉を使いがちですが、実際は自分の周りの数人が言っているに過ぎない場合があります。
物事には簡単に白黒つけられないことがあるのですが、最近は真ん中にいることができない人が増えています。『アメリカの新右翼 トランプを生み出した思想家たち』(新潮選書)の中で、最後に著者の神戸大学大学院国際文化学研究科の井上弘貴教授は「右であれ左であれ、いまや穏健であることは罪になりつつある。対立する価値観や利害のあいだで可能な限りのすり合わせを試みるような態度は利敵行為とみなされ、敵なのか味方なのかはっきりしない者はどちらからも胡散臭い目で見られる時代である。その只中で、一体どのような思想を紡ぐことができるのだろうか」と記しています。教授はまた「アメリカはなんだかんだと批判の対象となりつつも、最後は理想視できる存在だった。そのアメリカが現在、あまりにも巨大な他山の石としてわれわれの前に立ちはだかっている」と結んでいます。
人は自分の生活や立場に不満があると、他者を貶めることで気を晴らすという心理が働きます。これが集団となると対象者に対する暴力となります。世界的に貧富の格差が大きくなっている現在、不満や妬み嫉みが充満し極端な行動に走りがちです。歴史を振り返ると、国の経済状況が悪化し国民の不満が溜まると、捌け口を他者に他国に求めます。またそれを煽るポピュリストが出現します。このような時だからこそ事の真偽を見極める目を持たねばなりません。これは歴史の教訓です。本校の校訓は「穏健着実」です。「穏健である」勇気を持ちたいものです。







