3年生のみなさん、卒業おめでとうございます。保護者のみなさまにも心からお祝いを申し上げます。
みなさんの高校生活は百年に一度と言われる感染症のパンデミックにより大きな影響を受けました。学園生活の楽しさも半減したことと思います。しかし、これは私たちのみならず、全世界の人々が甘受せざるを得ない災厄です。人類の長い歴史は戦争と疫病との闘いともいえます。今回、私たちは行動制限下において、多大な不自由とストレスを抱えました。
当初は感染者に対する誹謗中傷が多発し、自粛警察などの出現もありました。アルベール・カミュの『ペスト』は、1940年代アルジェリアの都市オランでベストが流行した設定で書かれた小説です。その中で、カミュは次のように述べています。「世間に存在する悪は、ほとんど常に無知に由来するものであり、良き意志も豊かな知識がなければ、悪意と同じくらい多くの被害を与えることがある」。私たちも、今回のコロナ禍における人々の言動を振り返る時、知識の重要性、学び続けることの意義を痛感します。
3年前、入学式において、「失敗や挫折を乗り越えようと努力すれば、必ず助けてくれる人が現れる」という話をしました。そして、この不確実性の時代を生き抜くためには、失敗や挫折にめげることなく、そこから学び立ち上がる力「挫折力」を養うことが大事だと申し上げました。後で振り返ると、たいしたことではないと思えることも、その当時は、それで悩み苦しむことが多いものです。困難を乗り越えあるいは困難な状況と上手く折り合いをつけて、自信を獲得した人もいたはずです。私は失敗や挫折を経験してそれを乗り越えた人の方が、そうでない人より人として成長すると確信しています。
私はみなさんと3年間を過ごせたことを嬉しく思います。校長室で、友人関係や進路の悩みの相談に乗り、入試や就職の面接練習や小論文指導をしました。時々、生徒会室に遊びに行き学校についての意見を聴きました。登下校途上で出会い雑談することもしばしばでした。不平不満も含めて一人一人の話をじっくりと聴くことができ、理解を深めるとともに、新たな気づきもありました。朝校門で気軽に声を掛けてくれる3年生とお別れするのは誠に寂しい限りですが、みなさんの門出を心から祝福したいと思います。
「強くなければ生きられない、やさしくなければ生きる価値がない」。これはレイモンド・チャンドラーの小説に出てくる主人公フィリップ・マーローのセリフで、私の好きな言葉の一つです。世の中は不条理なものであり、これからの人生では様々な理不尽にも出会うことと思います。負けることなく、挫折力を発揮し、やさしく強い女性として、自分サイズの未来を切り拓いて行ってください。そして、たまには学校に戻り元気な姿を見せてください。また、道に迷い悩んだ時は戻ってきて、話を聞かせて下さい。
名残は尽きませんが、みなさんの健康と益々の活躍を祈念しつつ、私の式辞といたします。