好文木(校長ブログ)
2020.04.20
(続)歴史に学ぶパンデミック

 「ロビンソン・クルソー」の作者ダニエル・デフォーにより著された「ペスト」はフィクションですが、1664ー1665年のロンドンにおけるペスト流行の大惨事につき、当時の文献を渉猟し、週毎の死亡者数など記録を詳しく調べた上で書かれており、当時の猖獗を極めたパンデミックの恐怖が身に迫ります。
 この小説は主人公の見聞と感想を軸に物語が進んでいきますが、主人公の口を通じて作者の考え方が投影されています。
 当時、感染者が出ると、その家は封鎖される規則になっていたのですが、監視の目を盗み逃げ出す家人もおり、感染者は早期に別の施設に移すべきだったと述べています。
 また、一見健康そうに見える感染者が自由に動き回ることで感染を拡大させているとの見方は、今、新型コロナウイルス感染拡大で言われていることと全く同じです。教会等で人が密集することは避けるべきだとの指摘は3密回避に繋がります。イカサマ師の跋扈は、現代のデマの拡散とダブります。貿易の停滞や誇大な噂の流布による経済的ダメージも現代と共通するところです。流行の後半になると死亡者が劇的に減少します。そうすると極端に緊張が緩み無防備な行動が増えてくることも現代と変わりません。
 市民からの多くの寄付、市長はじめ役人や医療関係者等の献身的な対応に敬意を表しています。日雇い職人や職工が大量に馘首されたにも関わらず、市当局が救済に尽力し一人の餓死者も出さなかったと称賛しています。
 さて、これに比しては、我が国の二転三転する経済対策が気になるところです。too little, too late とならない事を願います。
 1665年当時のロンドンの人口は約46万人と推定され、そのうちの6分の1に当たる約7万5千人がペストで死亡したと推定されています。
 1665年のロンドンと現代では、科学技術、医療レベル、衛生観念そして社会システムの複雑さ等すべてが異なります。また、ペストと新型コロナウイルスでは感染力や死亡率は全く異なります。しかし、これらを考慮に入れた上でも、人の行動原理には大きな違いはなく、歴史に学ぶべきところは大きいと思います。

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