
先日、生徒の相談に乗っていた時、「校長先生はストレスを感じたり、落ち込んだりすることはありますか?」と訊かれました。「それはあるよ」と言うと、続けて「その時はどのように対処してるのですか?」と訊ねられました。「その時は小説や伝記を読んで、困難を乗り越える勇気をもらうよ」と答えました。
小説や伝記には、辛いことや悲しいことに出会ったときの主人公や登場人物の身の処し方が描かれています。前向きなものばかりではなく太宰治の「人間失格」や谷崎潤一郎の「痴人の愛」のようなデカダンス的なストーリーも、それはそれで人生いろいろと考える材料になります。辛い時に明るく前向きな小説を読むよりその逆のものを読んだほうが落ち着く場合もあります。それは共感を持てるからだと思います。ただ共感を持った後、同じようにデカダンスの道を歩むのか、浮上するのかは気の持ちようです。私は飛行機が水面に向かって急降下を始めて、あわやと言うタイミングで浮上する感覚で危機を回避してきましたが、安全装置は読書が担ってきました。
英国のサセックス大学は読書によりストレスが68%減少したという研究結果を2009年に発表し、読書にはストレス解消やうつ病を改善する効果があるとして読書療法(Bibliotherapy)が確立されてきました。古代ギリシャの図書館のドアには「魂の癒しの場所」と書かれたボードが貼られていたとも言います。本校は従来の図書館のコンセプトを一変する計画を進行中で、来年夏休み中の工事を予定しています。気軽に本を手に取り読み思索に耽ることができるイメージです。まさに「癒しの空間」を生み出そうと考えています。
フランスの思想家パスカルは「人間は考える葦である」と言う有名な言葉を残しています。今、スマホがSNSが人間から「考える」機能を奪いつつあり、中が空洞の葦が増えつつあるのは残念なことです。人間は自らの知能の粋を集めた科学技術の成果物により自らの最も重要な機能を喪失するという皮肉な結果を招いています。